犬の皮膚病の種類・症状と対処方法を獣医が解説

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日診療数200件を超えることもある大病院で、日にち20−30件、犬猫を中心として4年間ほど診療しておりました。得意分野は神経疾患と抗がん剤治療です。働き始めてから短頭種の魅力に取り憑かれ、写真に写っているのトイプードルですが、現在は専ら短頭種(フレブル、ボクサー、シーズー)推しです。現在はアメリカで大学院に通っており、日がな症例と英語に揉まれています。現場からは離れていますが、飼い主様に正しい知識を伝えられるよう努力していきます。

犬の皮膚病についての概要

犬の皮膚病は動物病院で最も一般的に認められる疾患であり、その内容は感染性、ホルモン性、免疫介在性など非常に多岐に渡ります。また、体表ということもあり飼い主様が一番発見しやすいことも特徴的です。今回は皮膚病の総括として個々の疾患を簡単に説明したいと思います。

犬の皮膚病の種類と症状

感染性皮膚疾患

感染性皮膚疾患は最も一般的に見られる病気です。中には人や同居犬にうつるものがあるので気をつけましょう。

細菌性皮膚炎

細菌性皮膚炎は犬の皮膚病の中で最も一般的に見られるもので、皮膚の常在菌が感染を起こすことによって発症します。皮膚の発赤や赤みが特徴で、通常痒みを伴います。

マラセチア性皮膚炎

マラセチア性皮膚炎は犬の外耳および脂漏性皮膚炎を伴う犬の脇や鼠径部など湿気のたまりやすい場所に発生することが多い皮膚炎です。マラセチアという皮膚常在の真菌が異常増殖することにより発症します。強い痒みを伴います。

皮膚糸状菌症

皮膚糸状菌症はマラセチア以外のカビ(白癬菌など)が皮膚に感染することにより起こります。好発部位は足先や耳先で、若齢犬や高齢犬などの免疫力が弱い犬に感染します。通常脱毛が起こりますが、痒みはあまり強くありません。

疥癬症

疥癬と呼ばれる外部寄生虫の感染によって起こります。好発部位は外耳で、強い痒みと多量の乾燥した耳垢を伴います。

毛包虫症

アカラス、ニキビダニとも呼ばれる外部寄生虫の感染によって起こります。通常の皮膚にも多少存在しますが、免疫力の低下などが引き金になり異常増殖を起こすと、強い痒みを呈します。

アレルギー性皮膚疾患

アレルギー性皮膚疾患も特定の犬種においては多く見られます。脱毛を伴わない赤みと痒みが特徴で、治療には根気が入ります。

ノミアレルギー性皮膚炎

ノミの咬傷に対してアレルギーを呈した場合に起こる皮膚炎です。ノミが最もよく感染する背部から臀部にかけて発赤が生じ、通常強い痒みを伴います。

食物アレルギー・アトピー性皮膚炎

食物アレルギーは食物に、アトピーはその他の環境物質(花粉やハウスダストマイトなど)アレルゲンに対し体が過剰反応を起こす病気です。好発部位は口の周り、足先、脇、鼠径、外耳で皮膚が赤くなり、痒みを伴います。アレルギー性皮膚炎の犬は1日の糞便回数が多いと言われています。

犬の食物アレルギーについては、下記の獣医解説も参考に!

犬のアトピー性皮膚炎の詳しい記事は、下記の獣医解説も参考に!

接触性皮膚炎

直接触した原因物質に対しアレルギーを起こす病気です。接触部位の紅斑や痒みが見られます。

免疫介在性皮膚疾患

免疫介在性皮膚疾患はあまり多くありませんが、中には全身性疾患として重篤なものがあります。

天疱瘡

全身性の落葉状天疱瘡と、口の周りに症状を呈する尋常性天疱瘡があります。罹患犬は病変部の水泡、痂皮、潰瘍と強い痒みが見られます。

全身性エリテマトーデス

全身に脱毛、紅斑、潰瘍、痂皮形成が見られる病気です。

無菌性結節性脂肪織炎

ダックスフンドの腰背部に好発する結節です。結節は皮膚の下(皮下組織)の脂肪が免疫介在性に炎症を起こすことで形成されます。細菌の感染は認められません。通常罹患犬は症状を呈さず、飼い主が結節に気づくことが多いです。

ホルモン性皮膚疾患

ホルモン性皮膚疾患は比較的高齢の犬に見られることが多いです。特徴は痒みを伴わない左右対称性の脱毛です。

クッシング症候群

副腎からのホルモンの過剰分泌による内分泌系の病気で、通常痒みを伴わない左右対称性の脱毛が見られます。ただ、皮膚の免疫力が低下するため二次的に細菌感染が起こったり、ひどい場合は皮膚が石灰化します。

甲状腺機能低下症

甲状腺ホルモンの分泌低下により、痒みを伴わない左右対称性の脱毛が起こります。

避妊・去勢反応性皮膚疾患

去勢および避妊をしていない犬において、ホルモン反応性の脱毛が見られる場合があります。通常避妊、去勢をすると改善します。

角化異常

角化とは皮膚の細胞が成長してフケになっていく過程のことで、特定の犬種に見られます。乾燥またはべとついたフケが特徴です。

脂漏症/乾性脂漏症

脂漏症は皮膚の角化が正常に行われなくなることによって起こる病気で、皮膚がべとつくまたは皮膚に乾燥したフケが異常にある状態を言います。痒みを伴うことがあります。

亜鉛欠乏性皮膚炎・ビタミンA反応性皮膚炎

亜鉛およびビタミンAの欠乏によって起こるとされている皮膚炎です。脂漏などが起こります。

皮脂腺炎

毛根のそばにあるアポクリン腺が炎症を起こす病気です。白色のフケと毛包円柱と呼ばれるフケ状の塊が皮膚に見られます。秋田犬、スタンダードプードルに多いです。
その他脱毛性疾患

その他脱毛性皮膚疾患

痒みや赤みを伴わない脱毛性疾患は数多くあり、遺伝性の黒色被毛形成異常(黒色の毛のみが脱毛を起こす)や再発性側腹部脱毛症(両側腹部に繰り返し脱毛が起こる)、休止期脱毛、パターン脱毛、心因性脱毛などが有名です。ただ、鑑別は難しい場合が多いので獣医師に相談することをおすすめします。

人や他の犬にうつる皮膚病

人に感染する皮膚病で最も注意しなくてはいけないのが、真菌性皮膚炎です。原因菌は数種類いますが、どの真菌も免疫力が弱っている人の皮膚に感染を起こします。通常犬に触れることがある腕に、直径5センチほどの多少の掻痒感を伴う赤みがかった病変を形成します。疑わしい場合はすぐに医者に行ってください。

また疥癬は一般的に宿主特異性(犬なら犬のみに感染する)が高いですが、免疫力が弱っている人間に感染すると、強い痒みと皮膚の赤みを引き起こします。

犬にうつる感染症としてはノミ、疥癬が代表的です。毛包虫やマラセチアもうつりますが、この寄生虫及び菌は通常ある程度皮膚に存在し、皮膚のコンディションが悪くなった場合に発症するので、そこまで気にしなくても大丈夫です。

また細菌性皮膚炎に関しては、もともとの皮膚常在菌が感染して発症するためうつるとは言い難いですが、特殊な耐性菌が感染した場合は注意した方が良いでしょう。

犬の皮膚病にサプリメントは効果あるのか

外部寄生虫(ノミ・疥癬・毛包虫)の場合はサプリメントの効果はないと考えられますが、アレルギー・アトピー性皮膚炎および脂漏症/乾性脂漏症の場合はサプリメントの効果はあると考えられます。

サプリメントに含まれているω脂肪酸や亜鉛、ビタミンAは一部の皮膚炎の治療に内服やシャンプー療法と共に使用されることが多く、サプリンメント単一ではなく他の療法と組み合わせることで効果を発揮します。

獣医経験談

今回は私が診察した皮膚糸状菌症の犬の話を紹介します。

症例は生後3週間のチワワ3頭。オーナー様がご家庭で繁殖させた子犬さんでした。お母さん犬は子犬が生まれる前から体に脱毛が見られたということでしたが、病院に連れてこられた子犬たちはみんな目の周りと耳の後ろがはげており、ひどい子犬では背中の皮膚が円形に脱毛していました。

診断はウッド灯という特殊ランプですぐについたので、お母さん犬及び子犬前頭に抗真菌薬の内服剤を出すことにしました。皮膚病に使う薬の中でも抗真菌剤は肝臓への負担が大きいので、最初の1週間は皮膚へ直接塗布するタイプの抗真菌剤で様子を見たのですが、どうしても改善しなかったのです。

その後2週間ごとに皮膚の状態を確認していき、子犬たちが里子に出される2ヶ月後には完全に脱毛はなくなっていました。

真菌性の皮膚炎は通常痒みを伴わない脱毛であることが多く、足先や耳など体の先端に感染が起こりやすいのが特徴です。また抗真菌剤の多くは肝臓に負担をかけるため、長く使い続ける場合は血液検査による肝臓のチェックを必ず行うようにしてください。

この症例ではありませんでしたが、実際に看護師やオーナー様に感染が起きた例もありますので、真菌性皮膚炎に罹患した犬を触ったあとは必ず手を洗うようにしてください。

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日診療数200件を超えることもある大病院で、日にち20−30件、犬猫を中心として4年間ほど診療しておりました。得意分野は神経疾患と抗がん剤治療です。働き始めてから短頭種の魅力に取り憑かれ、写真に写っているのトイプードルですが、現在は専ら短頭種(フレブル、ボクサー、シーズー)推しです。現在はアメリカで大学院に通っており、日がな症例と英語に揉まれています。現場からは離れていますが、飼い主様に正しい知識を伝えられるよう努力していきます。