犬のクッシング症候群とは?症状・原因・治療方法を獣医師が解説

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獣医師 吉野

日診療数200件を超えることもある大病院で、日にち20−30件、犬猫を中心として4年間ほど診療しておりました。得意分野は神経疾患と抗がん剤治療です。働き始めてから短頭種の魅力に取り憑かれ、写真に写っているのトイプードルですが、現在は専ら短頭種(フレブル、ボクサー、シーズー)推しです。現在はアメリカで大学院に通っており、日がな症例と英語に揉まれています。現場からは離れていますが、飼い主様に正しい知識を伝えられるよう努力していきます。

犬のクッシング症候群の概要とホルモン調節

クッシング症候群(副腎皮質機能亢進症)とは、副腎から分泌される「コルチゾール」というホルモンの分泌過剰により生じる内分泌疾患です。

副腎は両方の腎臓の頭側にある1-2cm程の臓器ですが、コルチゾール以外にも複数の重要なホルモンを分泌しています。

副腎からのコルチゾール分泌は脳の下垂体から分泌される「副腎皮質刺激ホルモン(ACTH)」により調節されており、さらにACTHの分泌は脳の視床下部から分泌される「副腎皮質刺激ホルモン放出ホルモン(CRH)」により調節されています。

脳(視床下部)
副腎皮質刺激ホルモン放出ホルモン(CRH)

脳(下垂体)
副腎皮質刺激ホルモン(ACTH)

副腎
コルチゾール

コルチゾールはエネルギーの吸収を促進させることにより血糖値を上昇させたり、炎症を抑える働きをするため、医学領域では類似成分がステロイド剤として用いられています。

通常コルチゾールの分泌量が過剰な場合は視床下部でのCRH分泌が抑制され、コルチゾールの分泌量が制限されますが、このホルモン調節機構がどこかの部位で破綻し、コルチゾールが過剰に分泌されるようになった場合、クッシング症候群が起こります。

クッシング症候群の好発犬種・年齢

好発犬は7歳以上の雌犬で、プードルやダックスフンドに比較的多く見られます。

犬のクッシング症候群の主な症状

クッシング症候群に罹患した犬では主に以下のような症状が認められます。

1.多飲多尿

一般的に犬では一日の飲水量が90ml/kgを超える場合、飲水量が多いと判断されます。尿量は判断するのが難しいことが多いため、疑いがある場合は1週間程度の平均飲水量を測定すると良いでしょう。

2.腹囲膨満

クッシング症候群になると筋肉量が低下するため、お腹の肉が支えきれなくなりポットベリーと呼ばれる腹部が下垂したような体型になります。

3.皮膚症状

ホルモン性皮膚疾患に特徴的な左右対称の脱毛が起こり、毛のパサつきが顕著になります。脱毛部位には2次感染や石灰化(通常の皮膚よりも硬く灰色の沈着物)がみられる場合があります。

また外見的にはわかりませんが、肝臓の腫大や気管支の石灰化が起こり、通常よりも疲れやすくなることがあります。

犬のクッシング症候群の原因・診断

クッシング症候群は下垂体と副腎の異常により生じる自然発生性クッシング症候群と、薬の副作用によって生じる医原性クッシング症候群があります。

下垂体性クッシング症候群

このタイプのクッシング症候群は、自然発生性クッシング症候群の70%以上を占め、下垂体の腫瘍によってACTHが過剰分泌されることによって起こります。

下垂体腫瘍は大きさが1cm未満のミクロアデノーマと1cm以上のマクロアデノーマに分類されますが、マクロアデノーマの場合脳を圧迫し痙攣などを引き起こす可能性があります。

原因が下垂体にある場合、下垂体の腫瘍はMRIのみでしか見つけれませんが、副腎が両側対称性に腫大していることをエコー検査などで確認することができます。

副腎性クッシング症候群

このタイプのクッシング症候群は、自然発生性クッシング症候群の30%程度を占め、副腎の腫瘍によってコルチゾールが過剰分泌されることによって起こります。

片方の副腎腫瘍の場合はエコー検査などで、歪に腫大した副腎を確認することができます。副腎の腫瘍は悪性の場合、周囲の臓器に浸潤する可能性があります。

医原性クッシング症候群

皮膚の治療や免疫疾患の治療に使用されるステロイド剤を長期投与することにより、体内のコルチゾールが過剰となり、クッシング症候群と同様の症状を示すことがあります。(通常はステロイド0.5mg/kg、2日に1回以下での投薬であれば長期間でも副作用はないとされています。)

この場合、ステロイド剤の投薬を中止しても副腎のホルモン産生機能が戻らないこともあり、アジソン症候群(コルチゾールの分泌低下によって引き起こされる病気)に陥る可能性があります。

全てのクッシング症候群は臨床症状、投薬歴、画像検査、血液検査や尿検査によるコルチゾール値測定により総合的に診断されます。

犬のクッシング症候群の治療方法

自然発生性クッシング症候群は内科治療が主であり、コルチゾール値を調節するための内服薬を服用します。内服薬は副腎の細胞を殺すことによりコルチゾールの生産を減らす薬なので、必ず定期的に血中コルチゾール値を測定する必要があります。

投薬後のコルチゾール値を確認しながらその犬にあった適切な投薬量を決定しますが、臨床症状が消えるのには時間がかかることが多いです。また、内科治療は根本的な治療ではないため、一生続けることになります。

悪性の副腎腫瘍が疑われた場合や、下垂体の腫瘍が大きく痙攣などを伴う場合は、外科的摘出や放射線療法を考慮することもあります。

医原性クッシング症候群の治療はステロイド剤の投薬を徐々に減らします。

クッシング症候群の合併症

ここではクッシング症候群と診断された犬と生活する場合に知っておかなくてはいけない、命に関わる合併症を紹介します。この合併症に関しては内科治療をしていても発症する可能性があります。

1.糖尿病

クッシング症候群の犬は糖尿病に罹患しやすくなります。クッシング症候群の犬に糖尿病が併発した場合、インスリン治療が奏功しない場合も多く管理が困難になる可能性が高いです。上記の症状に加え、体重の減少などがみられた場合は注意を要します。

糖尿病に関する詳細はこちらを参考にしてください

2.血栓塞栓症

クッシング症候群の犬は血液凝固機能が亢進しており、血管の中で血の塊(血栓)ができやすい状態になっています。稀ではありますが、この血の塊が後肢の血管に詰まり足が動かなくなったり、腐敗する犬がいます。

犬のクッシング症候群に関する獣医経験談

獣医師体験談
症例は14歳、雌のミニチュアダックスで、近頃トイレが近いという主訴で来院しました。お話を伺うと毎日夜中にもトイレに行きたがり、泣きわめくか家の中で漏らしてしまうということです。犬は全体的に毛が薄く、飲水量も一日110-120ml/kg程飲んでいました。

一般的な血液検査とレントゲン検査、エコー検査を行なったところ、肝臓の数値がやや高く、エコー検査における両副腎の腫大が認められました。

飼い主様に下垂体性クッシング症候群の可能性があることをお伝えしましたが、MRI検査は麻酔が必要であり年齢的に望まないとのことから、血液検査でコルチゾール値を測定し内服薬で経過を観察することにしました。

その後3ヶ月ほど内服薬を飲み続けたところ、徐々に飲水量が減り夜中のトイレの回数も少なくなったため、投薬を現在も継続中です。

この症例の場合は、飼い主様が臨床症状に困っていたため内服薬を服用しましたが、クッシング症候群治療の内服薬は非常に高価で、長期間の服用が難しい場合もあると思います。その場合は担当の獣医師と薬を飲む場合と飲まなかった場合の利点と欠点について十分に話し合いをした上で治療を開始することをおすすめします。

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獣医師 吉野

日診療数200件を超えることもある大病院で、日にち20−30件、犬猫を中心として4年間ほど診療しておりました。得意分野は神経疾患と抗がん剤治療です。働き始めてから短頭種の魅力に取り憑かれ、写真に写っているのトイプードルですが、現在は専ら短頭種(フレブル、ボクサー、シーズー)推しです。現在はアメリカで大学院に通っており、日がな症例と英語に揉まれています。現場からは離れていますが、飼い主様に正しい知識を伝えられるよう努力していきます。